HSP
こんにちは、広報チームの佐藤です。
「HSP」という言葉をご存じでしょうか。
HSPは、生まれつき繊細で、周りの人が気づかない小さなことにもよく気づく、小さな事でも刺激に感じてしまうタイプの人の事を言います。
これは、アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱したHSPがベースになっています。アーロン博士によると、この気質の根底には次の4つの性質がすべて存在しています。深く処理する(深く考える)、過剰に刺激を受けやすい、感情反応が強く共感力が高い、ささいな刺激を察知する。この4つです。
人間は誰しも「最適な刺激の強さ」というものがあります。たとえば、イヤホンの音量がどれくらいだと自分にピッタリかは人によって違います。そのように、大きめの刺激がちょうどいい人もいれば、小さめの刺激で十分な人もいます。繊細さんは、刺激をよく感じ取る人。だから小さな刺激が最適、というわけです。
コミュニケーションにおいても、相手のちょっとした表情の違いや声のトーンなどを、非繊細さんよりも細やかに見分けます。そのため、周りが困っていることにもいち早く気づくのです。
繊細さんには「深く考える」という性質があります。
「このままだと後々困るのでは」というシミュレーションも得意です。そのため他の人たちよりも、いち早くリスクに気づいて防ぐ行動をたくさんしています。その結果、周りの人を助けすぎてしまうことがあります。
それ自体はいいことなのですが、繊細さん本人がそのことに苦しんでいたらどうでしょう。
たとえば、職場のシーンだと、困っている人に気づくたびに手伝ってしまい、自分の仕事に手が回らなくなることもあります。はたから見れば「真面目でよく働いてくれる人」ですので、仕事がたくさん舞い込んでしまうこともあるでしょう。共感力が高く相手を思いやったコミュニケーションをとれるからこそ、癖のある人と仕事を組まされるケースもあります。
この場合、本人が苦でなければ何も問題がなく「真面目で思いやりのある素敵な人」なのですが、本人は苦しいと思っているのに無理に引き受けてしまえば、悪い意味で「いい人」になっているといえます。両者の分かれ目は、「自分が苦しいかどうか」なのです。
繊細ゆえに自分が無理に「いい人」になっていると気づいた場合、どうすればよいでしょうか。
まずは、HSPについて知ることが第一歩です。
例えば、細かいことは気にせず次々に仕事をこなす事ができる人のほうが向いている職場の場合、周りを見れば、先輩は要点を絞って要領よく実験しているし、後輩は失敗してもどんどん実験しているという環境。
しかし、HSPの方の場合は、あらかじめ時間をかけて準備して、間違いがないよう様々な調整をしたうえで実験をスタートするので、自分では仕事が遅いと感じしまいます。よく考えて行う分、結果としては評価されていたのですが、ひたすらスピードが求められる職場を苦しいと感じてしまいます。
HSPを自覚していない場合は、ほかの人と何が違うのかがわからず、「なんでみんなはあんなにタフなんだろう」と思っていました。長時間労働のなか、ストレスが積み重なり休職。
アーロン博士の本を読んで、自分はHSPだと気づいたのです。
周りの人がタフだったわけではない。「自分が感じていたストレスの量が、ほかの人よりもはるかに多かったのだ」と認識することが、できました。
「ストレスに耐えられない自分が悪い」と、そんなふうに自分を責めていましたが、HSPだと気づいたことで心が軽くなりました。
ひたすら耐えようとしていたこと自体が間違っていたと気づき、繊細さを含めて自分を大切にしたいと思うようになりました。しかし気づいたことで「今の職場では自分を生かせない。ほかに何かやりたいことをやろう」と、他の職場に目を向けて見るのも1つの策かもしれません。
まずは「自分を知ること」が自分を生かし、元気に生きるための第一歩。そのうえで、自分の本音を大事にすることが大切です。どんなに必要とされていても、「これ以上やったら自分が大変だ」とわかったら、頼みごとを断っていいのです。「大変だな」と思ったらタダで引き受けるのではなく「今回は引き受けますが、その代わり次の仕事では助けてくださいね」など、ギブ&テイクの精神で臨むのもいいでしょう。
繊細さんが元気に働くには、自分に合った環境を選ぶことが大事です。
職場でいえば、「やりたいこと」「得意なこと」「自分に合った職場環境や労働条件かどうか」の3点が満たされると「適職」となります。「やりたいこと」のなかでも、繊細さんたちに大事なのは、その仕事を自分がいいと思っているかどうかです。
たとえば、営業の仕事の場合、繊細さんからは「自分がいいと思っていない商品を勧めるのは、嘘をついているようでストレス」というお話を聞きます。
世の中には「仕事だから」と割り切って働ける方もいますが、繊細さんは自分の心の違和感にもよく気づきますから、なぁなぁでやることが難しいのです。また「昇進試験のために勉強しなければいけないけれど、実は今の仕事に興味を持てなくてつらい」といったご相談もあります。要するに、自分の良心にかない、かつ興味のある仕事をすることが必要なのです。
しかし、誰であれ、一発で適職に就くのは難しいことです。特に1社目では「これをやりたいと思って就職したけれど、実際にやってみるとそこまで好きじゃなかった」ということが起こりやすい。実際に働いた経験をもとに、「これまでの仕事の中で、集中していた業務や、好きな業務はなんだろう」と思い出していただくと、自分が何をやりたいのかのヒントを得られます。
では逆に、自分の周りに「この人、もしかしたら繊細さんかな?」という人がいたら、どうすればいいでしょうか。まずは、人それぞれ感覚が違うということを知っていただければと思います。相談されたときに「そのくらいのことで」と言わないでほしいのです。
たとえば、「オフィスで周りに人がいると仕事に集中しづらいので、集中したいときは会議室を使ってもいいですか」と部下に相談されたとします。
そのとき、それくらい大したことないだろうという判断をしないこと。「君にとってはそうなんだね」と受け取って、「会議室が空いていればそこで作業してもいい」「次の席替えでは端の席にする」「週に何日かはリモートワークも選べる」など、具体的な解決策につなげるのがベターです。
繊細さんの悩みに対して「気にしすぎ」「そのくらいのことで」と返すのは、「寒い」と言っている人に対して「俺は寒くないから、君も寒くないだろ。気にしすぎだよ」と言うようなもので、なんの解決にもなりません。「僕はわからないけれど、君にとってはそうなのか。じゃあ、どうしたらいいんだろう」と耳を傾けてほしいのです。
もちろん繊細さんの側も、自分がどうしたいのか、あるいは、相手にどうしてほしいのかを具体的に伝える必要があります。HSPの社会的認知度はまだ低く、「私はHSPなので」と伝えることが、職場にどう受け取られるか正直まだわからない状況です。「HSPだから配慮してほしい」と言うよりも、「自分は人がいないほうが集中できて仕事の効率が上がるから、会議室が空いているときはそこで作業したい」と、「パフォーマンスを上げるために」という文脈で伝えるほうが、上司も動きやすいでしょう。
HSPは病気ではなく、「気質」です。身長のように、その人が持って生まれたものです。気質は性格ともまた違います。気質は持って生まれたもの、性格は家庭や学校など育った環境の影響を受けて形成されるもの、という違いがあります。
誤解されやすいのですが、HSP気質は「神経質」とは別物です。非繊細さんのなかにも繊細さんのなかにも神経質な人はいますが、神経質は持って生まれた気質ではなく、環境によって生じるものです。
たとえば、小さい頃から自分を否定されながら育つと、「自分が悪いんだ、どこか間違っているんだ」と、自信を持てない状態になります。すると、書類を何度もチェックしないと不安になるなど、神経症的な症状が表れます。神経質の背景には不安がありますが、HSP気質の根底にあるのは不安ではなくDOES(図)です。繊細さんは、「今日は天気がよくて嬉しい」など、いいことにもたくさん気づくことができます。
・深く処理する(深く考える)
・過剰に刺激を受けやすい
・感情反応が強く共感力が高い
・ささいな刺激を察知する
繊細さんはおおざっぱな人と付き合うとストレスがたまるのでは、と聞かれることもありますが、そんなことはありません。繊細かどうかよりも、自分にとって安心できる相手かどうかのほうが大事です。繊細さんと非繊細さんのカップルも数多くいますし、おおざっぱでもおおらかな人は、繊細さんにとって安心できる相手だったりもします。
今、HSPがどれくらい社会に認知されているかのデータはありませんが、世の中に出てからまだ二十数年で、心理学的には歴史の浅い言葉です。
日本で周知され始めたのは3年ほど前。ツイッターでHSP当事者が自分の感覚を漫画で描き、多くリツイートされたのがきっかけで広まりました。しかしながら、まだまだ当事者とその周辺までしか認知されていない状況かと思います。
HSPの人が苦しみから抜け出す第一歩は、「自分について知ること」です。それで元気になる人が1人でも増えるように、さらに認知が広まったらいいですね。
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